右上腹部、肝臓の下に胆汁を貯めておく袋がぶら下がっており、「胆嚢」と呼ばれます。胆汁はおもに脂質やビタミンの消化・吸収に関わる消化液で、胆嚢に蓄えられたあと、食事が胃から十二指腸を通過するタイミングで胆嚢が収縮して胆汁を押し出し、胆汁は「胆管」という本幹を通って十二指腸に排出されます。胆石とは胆汁の流路にできる石の総称であり、胆石の約8割は胆嚢内にできる「胆嚢結石」であるとされています。
「胆管」にできる結石は「総胆管結石」
「肝内胆管」にできる結石は「肝内結石」
とそれぞれ呼称され、「胆嚢結石」とは区別されます。
胆嚢の中で胆汁の成分が析出すると、泥(胆泥)、砂(胆砂)になります。胆嚢の動き(収縮する力)の悪さもあいまって、これらが結晶化して石状になったものが、いわゆる胆嚢結石(胆石)」です。
食生活の欧米化、高齢化などによって、胆石を保有する方は増加傾向であり、日本人の10人に1人、といわれています。
一般的にでは胆石ができやすい方として、
が挙げられます。
1.腹痛(胆石発作)
特に脂っこいものを食べたあとに上腹部に痛みがでることがあります。胆石があることにより胆嚢内の圧力が高くなることが原因です。
2.急性胆嚢炎
腹痛に加え、発熱を伴います。胆嚢の粘膜が傷つき、胆嚢内の胆汁に細菌感染が起こります。炎症に程度に応じて早期の対応が必要になります。
3.黄疸
胆嚢内の小さな石が、胆管に落ちると、胆汁の流れが堰き止められ、黄疸(目や尿が黄色くなる)が生じます。
まずは体への負担が少なく簡便に施行できる超音波検査を行います。
さらに、胆石が指摘された上で治療を前提する際には、
「胆石以外に痛みの原因はないか?」
「総胆管結石はないか?」
「悪性(がん)の所見はないか?」
「胆管はどのような形か?」
などを明らかにするために、CT検査、MRI検査、内視鏡検査、などの検査を追加します。
特に総胆管結石があり、黄疸や炎症を伴っている場合には総胆管結石の治療を優先することがあります。
胆石症の治療には、大きく分けて以下の3つがあります。
1.手術
手術で胆嚢ごと胆石を摘出します(胆嚢摘出術)。
胆嚢がなくなりますので胆石ができることはなく、根本的な治療になります。当院では上腹部手術の既往や炎症の有無などに関わらず、すべての胆石症に対する手術を腹腔鏡下胆嚢摘出術(後述)の適応としています。
2.薬物による溶解療法
サイズが小さくかつコレステロール成分が多い一部の胆石のみが適応になります。一部の胆石にしか適さないこと、長期の内服が必要になること、一旦溶けた石がまたできてしまう(再発)などの点から治療効果は限定的です。
3.体外衝撃波破砕療法
結石を細かく砕く治療ですが、薬物療法と同様、コレステロール結石のみが適応になること、結石の再発率が高いこと、長期の治療になること、などの点から一般的とはいえません。
胆嚢の手術については、全国的に広く普及し、一般的に行われている腹腔鏡下胆嚢摘出術を行っています。ガイドライン(急性胆管炎・胆嚢炎診療ガイドライン2018)に準じた安全な手術手順(Safe Steps)を遵守しており、急性胆嚢炎に対する治療も原則、早期手術の方針としております。
おへそと図の3箇所に、小さな穴を開けます。小さな穴から医療器具とカメラを挿入し、モニターの画面をみながら手術を行います。手術時間は炎症のない胆石症に対する手術で1時間から1時間30分、急性胆嚢炎に対する手術で1時間30分から2時間程度です。炎症や癒着がひどい場合には「ドレーン」という管を1本お腹の中に入れる場合があります。術後は問題なく経過すれば、手術後2, 3日程度で退院が可能になります。
当院では上腹部手術の既往や炎症の有無などに関わらず、すべての胆石症に対する手術を腹腔鏡下胆嚢摘出術の適応としています。
しかしながら、
などの理由から、まずは炎症を抑えることが最優先と判断される場合があります。そのような場合は、抗菌薬による治療、必要に応じて胆汁ドレナージを行い、胆嚢炎が治った後に手術を行います。
当院では2023年1月から12月の間に115例の腹腔鏡下胆嚢摘出術を行いました。出血・癒着・他臓器損傷などを理由に開腹手術へ移行した例は1例もありませんでした。
一般的な流れは以下になりますが、胆嚢炎の程度、持病の有無、身体の状態などを考慮して、患者さんひとりひとりに対して最適な対応をさせて頂きます。
短期入院をご希望の方は柔軟に対応させて頂きますので担当医までご相談ください。
診察のほか、精密検査のため血液検査、超音波検査、CT検査、MRIを行います。手術の方針となった場合には全身麻酔に必要な呼吸機能検査、心臓検査(超音波検査、心電図検査)を受けて頂きます。
医師より手術の説明があります。同意が得られましたら手術日と入院日を決定します。外来スタッフより入院案内があります。
入院して頂きます。病棟看護師より入院生活についての説明があります。麻酔科医師の診察があります。夕食までは普通に食事をして頂きます。
朝より点滴をして頂きます。手術が終わりましたら数時間は安静にして頂きます。ふらつきがなければ歩行が可能になり、尿の管を抜いてトイレに行くことができます。手術後、3時間程度したら水・お茶を飲むことができます。
朝に血液検査があります。朝より食事が開始になります。
体温、創部の具合、食事の摂取状況などをみて退院許可がでます。「ドレーン」という管が入る場合は数日入院期間が延長することがあります。
退院後1〜2週間後に外来を受診して頂きます。問診、創部の確認、血液検査、摘出した胆嚢の病理組織検査の説明などがあります。
「胆石があると胆嚢癌になりやすいのですか?」
「胆石症診療ガイドライン」では「胆石症と胆嚢癌の因果関係を示す明らかなエビデンス(科学的根拠)はない」とされています。
これまでの報告では胆嚢がんと診断された胆嚢を調べますと約5割の症例で胆石があることが知られています(文献1)。しかし、胆嚢癌の患者さんのみを対象とした研究では、胆石がある→胆嚢癌が発生しやすい、という「原因と結果」の関係については説明が困難です。胆嚢癌が発生、生育する過程で胆石が形成されている可能性もあるからです。
海外からの報告では胆石が胆嚢癌の危険因子であるとする報告がありますが(文献2)、一般人口に対する胆石の保有率は地域、人種によって様々ですので、日本人についても同様に結果が当てはまるとは限りません。
もともと胆嚢がん自体が稀な病気であり、無症状の胆石がある方でも胆嚢がんの発生率は年間0.01~0.02%, つまり5000〜10000人に一人)です(文献3)。
以上から、無症状の胆石の方には直ちに治療の必要はなく、「胆石症診療ガイドライン」では「無症状の胆石を保有する方に年1回の経過観察」を推奨しています。
【参考文献】
「胆嚢をとっても大丈夫ですか?」
「後遺症はないのですか?」と言い換えることもできます。ひとつの臓器を摘出する訳ですので、不安もあるかと思います。しかし、結論からすると、胆汁が作られる肝臓、胆汁が流れる胆管、胆汁が流れ出る十二指腸乳頭部、こちらが健全に機能してれば、「胆嚢はとっても大丈夫」といえます。
なぜ、胆石ができるか?という疑問に立ち返りますと、胆石ができる原因として「胆嚢収縮能の低下」、つまり胆嚢収縮して胆汁を胆管に押し出す力の低下が挙げられます。胆石を保有している胆嚢は既に健全に機能していない可能性が高く、そのような胆嚢を摘出しても、特に問題は生じ得ないと考えられます。
稀ではありますが、”胆嚢摘出後症候群”とよばれ、腹痛や便通異常が続く方いるとされていますが、時間とともに改善して気にならなくなるのがほとんどです。また、脂っこいものを多く摂取したときに、食物の通過に胆汁が追いつかずに下痢しやすいとも言われますが、日常生活に影響を与えることはまずありません。
「胆嚢の石だけ手術でとることはできませんか?」
胆嚢の壁を切開して胆石を取り出し、切開した胆嚢の壁を縫合する、といった手術は「回避手術」として炎症や癒着が高度で胆嚢の全摘な困難な場合に対してのみ行います。
胆石が析出してしまった胆嚢は胆嚢収縮能の低下が背景にあるため、このような健全に機能していないであろう胆嚢から胆石だけを摘出しても、また胆石ができてしまう(再発)の可能性があります。その際には再度治療が必要になる可能性があります。 なるべく一度の手術ですべて完結するためにも、胆石ができてしまった胆嚢を積極的に温存する、という手術は推奨されていません。
手術を受けるにあたり、仕事の都合、体に対する負担、手術のリスク、などについて心配があるかと思います。さらに詳しく聞きたい方は外来担当医までご相談ください。
当院では消化器内科と外科が連携して、胆石症、総胆管結石症、胆嚢炎の診断から治療まで行う体制を整えています。急性胆嚢炎の治療はガイドラインに準じて原則早期手術の方針とし、安全な手術手順を遵守して行った結果、良好な短期成績が得られています。当該疾患の患者さんがございましたらいつでもご相談ください。ご紹介いただいた患者さんは連携室を通して、迅速に検査結果や診断をご返信するようにしています。