肝細胞癌(肝癌)は肝炎ウイルスに対する治療の発達とともに近年は罹患率、死亡率ともに減少傾向にあります。しかしながら、部位別がん罹患数は年間約26,000人で男性では5番目に多く、年齢階級別罹患率では男女ともに80歳代が最も多いと報告されています(がんの統計2022)。行田総合病院は埼玉県がん診療指定病院であり、診療各科と連携して肝臓に対する積極的な治療を行っています。今回は当院における肝細胞癌の治療について紹介させていただきます。
肝細胞癌は1.肝炎ウイルス、2.アルコール摂取、3.肥満・脂肪肝・糖尿病などの生活習慣病などが誘因となり、正常肝→慢性肝炎→肝硬変へ進行する慢性肝疾患を背景に発生します。当院では肝臓内科外来を設けており、肝炎ウイルスの治療ならびに治療後のサーベイランスを行っています。
肝細胞癌の診断は腹部超音波検査、造影CT、造影MRI、腫瘍マーカー(AFP, PIVKA-II)を組み合わせて行います。実際の治療は1. 腫瘍の数と大きさ、2.腫瘍の占拠部位(主要血管との位置)、3.肝機能、の3点を考慮しながら決定します。肝癌診療ガイドラインが提案する治療アルゴリズムに準じて1. 外科切除、2.肝動脈化学塞栓療法、3.化学療法のいずれかが選択されます。
行田総合病院では消化器外科と診療各科が連携して安全かつ体に負担の少ない肝臓手術を提供しています。術前は放射線科との連携のもと、術前シミュレーション画像に基づき肝臓の切除範囲と肝容量、残肝機能を予測し、過不足ない肝切除範囲を計画します。症例によってはより体に負担の少ない腹腔鏡手術を行っています。術中は麻酔科との連携しながら中心静脈圧を低めに麻酔管理を行うことで、出血量の軽減に努めています。術後はリハビリテーション部門と連携して早期離床を励行し、体力・栄養状態の維持・改善に努め、退院支援も行います。
肝内に病変が多発しているが、肝外へ転移の所見がない場合に適応となります。行田総合病院ではインターベンショナルラジオロジー(IVR)専門医のもと、肝動脈化学塞栓療法(TACE)を行っています。腫瘍の栄養血管に対して選択的に治療を行うことで、肝機能を保持しながら良好な病勢制御が得られています。1週間程度の入院で行っています。
肝外転移を伴う場合には全身化学療法の適応となります。行田総合病院では肝細胞癌に対する化学療法も積極的に行っており、ガイドラインに準じた一次治療として複合免疫療法であるアテゾリズマブ・ベバシズマブ併用療法を第一選択して治療を行っています。アテゾリズマブは抗PD-L1抗体であり、いわゆる免疫チェックポイント阻害剤に分類されます。がんの免疫逃避機構を遮断し、自身の免疫細胞(T細胞)を再活性化させて抗腫瘍効果を発揮します。ベバシズマブは血管新生阻害剤に分類され、腫瘍組織の血管新生を抑制し“栄養を断つ”ことで増殖を抑制する作用があります。
免疫チェックポイント阻害剤は免疫全般が過剰に活性化されることによって生じる特有の副作用(免疫介在性有害事象)があるため、チェックリストを用いて患者さんと副作用症状について情報共有を密に行い、安全面に配慮しながら治療を行っています。ご高齢の患者さんであっても生活の質を損なわず、良好な治療効果が得られています。また、週に1度化学療法カンファレンスを行い、多職種間で化学療法の安全性・有効性について検証を行っています。